Das Notizbuch von ka2ka ― ka2kaの雑記帳

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気になるオペラハウス(27)エアフルト劇場(Theater Erfurt)(独)

▼エアフルト劇場(Theater Erfurt)(独)
同劇場については、これまで何度か記事にしているが、「気になるオペラハウス」として取り上げるのは初めて。エアフルト(Erfurt)は前回取り上げたノルトハウゼンと同じく独チューリンゲン州に位置するが、こちらは州都。Wikiの記事によると、劇場としての歴史は古く、1756年まで遡るが、現在の劇場は2003年に新築された近代的な建物となっているようである(下記写真を参照)。ちなみに座席数は「800」。
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▼注目公演
・2016年5月29日(日)プルミエの新制作《ニュルンベルクのマイスタージンガー(Die Meistersinger von Nürnberg)》






▼関連記事
・Nach 53 Jahren wieder in Erfurt / Wagners "Meistersinger" als Gemeinschaftswerk
(5/25付Mitteldeutscher Rundfunk
・Premiere "Meistersinger von Nürnberg" in Erfurt(5/29付MDR KULTUR

▼同劇場関連の過去の記事
・続)V.D.キルヒナー作曲《Gutenberg》全1幕@独エアフルト(16/03/24世界初演)とはどんなオペラなのか(2016-04-02
・V.D.キルヒナー作曲《Gutenberg》全1幕@独エアフルト(16/03/24世界初演)とはどんなオペラなのか(2016-03-13
・作曲家&指揮者マンフレート・グルリットを知らなければ日本人オペラ愛好家として恥である!(2016-03-06
・気になるオペラ指揮者(3)ヨアナ・マルヴィッツ(Joana Mallwitz, 独)(2015-03-24
・Nana@Erfurt(2010-05-14

▼劇場アプリ利用可
・Die Theater Erfurt App ist für iOS im App Store sowie für Android bei Google Play erhältlich.
by ka2ka55 | 2016-05-25 00:52 | オペラ | Comments(0)

今年もようやくホトトギスが鳴いた(2016年5月24日午前2時55分頃)

昨年(2015年)よりも11日遅く、最近では7年前の2009年と同じく最も遅く、本日(5/24)未明にようやくホトトギスの初鳴きを確認したのでバードリサーチにも報告したところ。
過去の関連記事:
2015年05-13(今年は早くもホトトギスが鳴いた(2015年5月13日午後23時27分頃)
2013年05-15(今年は早くもホトトギスが鳴いた(2013年5月15日午前4時10分頃)
2012年05-22(「調査の報告」の報告)
2011年05-20(RE:あいつがやってきた)
2010年05-19(RE:あいつがやってきた)
2009年05-24(あいつがやってきた)
2008年05-18(初鳴き)
2007年05-24(噂をすれば…)

by ka2ka55 | 2016-05-24 07:25 | 自然 | Comments(0)

続続)ヘルマン・ヘッセに捧ぐ: 誤訳を見つけて御役に立てれば何より…

前回のつづき

▼あらためて問題の原文と訳文(日本語と英語)
▼原文
Daneben die vielerlei Pilze: der rote, leuchtende Fliegenschwamm, der fette, breite Steinpilz, der abenteuerliche Bocksbart, der rote, vielästige Korallenpilz; und der sonderbar farblose, kränklich feiste Fichtenspargel.

▼訳文(日本語): 松永美穂(1958-)訳(光文社古典新訳文庫版『車輪の下で』、2007年12月20日初版第1刷発行)
その横にはたくさんの種類のキノコがあった。赤く光るベニテングダケ、肉厚で幅広なヤマドリタケ、奇怪なバラモンジン、赤くてたくさん枝分かれしているサンゴタケ、そして奇妙に色のない、病的に太ったシャクジョウソウ。

▼訳文(英語)(Kindle版Beneath the Wheel
Next to them all kinds of mushrooms: the shiny red fly-agaric, the fat and fleshy ordinary mushroom, the red tangled coral-mushroom, the curiously colorless and sickly-looking Pine Bird’s Nest.
今回、約15年ぶりに"Bocksbart"を調べていて痛感したのは、言わずもがなのネットの瞠目すべき進化である。翻訳に限らないとは思うが、何か調べようと思ったら、今やネットなしでは考えられないほど(玉石混淆とはいえ)情報量は凄まじいことになっている。

たとえば、15年前に「wissen.de」のようなサイトがあれば、本件は一瞬で解決したはずであり、同サイトで"Bocksbart"を検索した結果を以下に示す。
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これを見れば一目瞭然なのだが、"Bocksbart"にはキク科植物(Korbblütler)としてのBocksbartと担子菌類すなわちキノコ(Ständerpilz)としてのBocksbartがあり、後者は"Ziegenbart"の同義語(Synonym)ということがわかる。
じつは、"Ziegenbart"は小学館の「独和大辞典」にもあり、「(1)(a)ヤギのヒゲ(b)(人間のあごの下に生やす)やぎひげ(2)(植)ホウキタケ(箒茸)属」と記載されている。ちなみに同大辞典の初版は1999年だが、私が現在所有している最も古い独和辞典である1961年初版発行の「独和言林」(白水社、佐藤通次著)にも「1)やぎの髭;<比>やぎ髯(あご下の髯)2)<植>はなびらたけ」と記載されている。どうやら「はなびらたけ」よりも「ホウキタケ」のほうが正しいようだが、いずれにしても、ヘッセがもし問題のキノコの名前を"Bocksbart"ではなく"Ziegenbart"と書いていてくれたら誤解(誤訳)は生じなかったかもしれない。

要するに、ヘッセがキノコの一種として挙げた"Bocksbart"は"orangegelber, korallenartig verzweigter Keulenpilz"すなわち「橙黄色の珊瑚状に枝分かれしたホウキタケ」ということになるが、いささか厄介なのは「ホウキタケ」には一般的に少なくとも4種類あること。すなわちホウキタケ(Ramaria botrytis)、ハナホウキタケ(Ramaria formosa)、キホウキタケ(Ramaria flava)、コガネホウキタケ(Ramaria aurea)。()内の学名が示すように、それぞれ色や形などが異なり厳密に分類・区別されていることがわかる。とくに「キホウキタケ」と「コガネホウキタケ」は混同されやすいとされているが、独名では前者を"Gelber Ziegenbart"、後者を"Goldgelber Ziegenbart"または"Goldgelbe Koralle"と呼ばれているようである。参考までに、以下に「キホウキタケ」(左)と「コガネホウキタケ」(右)の写真を掲載するが、たしかに見ようによっては「ヤギのヒゲ」を連想させる形状であり、 "abenteuerlich(奇怪な)"と形容されても不思議ではない。
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しかし、ここでさらに厄介なのは、ヘッセが4つ目に挙げたキノコの"Korallenpilz"もやはり「ホウキタケ」と呼ばれるということ。じっさいに、wissen.deによると、"Ziegenbart"の同義語として、"Korallenpilz; Keulenpilz; Bärentatze; Bocksbart; Judenbart; Krausbart; Clavaria"が挙げられている。すなわち分類学的には、ホウキタケ属(Ramaria)は約200種のcoral fungi(ホウキタケ類)から成るとされている。

一方、「独和言林」(1961年初版)を見ると、「Korallenpilz=Ziegenbart」とあるが、「独和大辞典」(1999年初版)の"Korallenpilz”には「(植)サンゴハリタケ(珊瑚針茸)(食用キノコ)」と記載されている。これはいったいどういうことなのか。”Koralle”はたしかに「珊瑚」を意味するが、和名で「サンゴタケ(珊瑚茸)」に分類されるキノコは存在しない。「サンゴハリタケ」の学名は「Hericium coralloides」であり、これはサンゴハリタケ科に属するまったく別のキノコ(独名はStachelbärte)である。したがって、断定はできないものの、「独和大辞典」の記述は誤りの可能性がある。と同時に、上の松永訳の「サンゴタケ」は明らかに誤りであって、翻訳者が好き勝手に命名してよいはずがない。いや、これは翻訳者だけの責任とは言えないかもしれない。
 翻訳に際しては、企画の段階から訳稿のチェックに至るまで、T.K.さんには大変お世話になった。また、光文社のM.K.さん、T.N.さん、T.S.さんにはアドヴァイスや励ましをいただいたほか、綿密なチェックもしていただき、いろいろと助けていただいた。これらの方々、また直接お会いすることのなかった校閲の方々にも、心から感謝したい。また、これまでに本作を訳された方々のお仕事も参考にさせていただきました。ありがとうございました。 p.307
氏名はあえてイニシャルにしたが、「訳者あとがき」(pp.304-308)でこのように書かれているのを素直に読めば、いったいどんな「綿密なチェック」をしていたのかと思わざるをえない。

長々とごちゃごちゃ書きましたが、結論として、ヘルマン・ヘッセが「車輪の下(Unterm Rad)」第二章の冒頭の「自然描写」の中で挙げた"Bocksbart"は"Ziegenbart"を意味し、「キホウキタケ」または「コガネホウキタケ」と呼ばれるキノコの一種であり、キク科植物の「バラモンジン(ばらもんじん)」では決してないということだけは、あらためて指摘しておきたい。また、今後、既刊の邦訳が改訂され、もしくは新訳が刊行される際には、訂正されることを強く望みます。 (了)

補足を読む

by ka2ka55 | 2016-05-21 11:28 | ドイツ語/外国語 | Comments(0)

気になるオペラハウス(26)ノルトハウゼン劇場(Theater Nordhausen)(独)

▼ノルトハウゼン劇場(Theater Nordhausen)(独)
ミュージカル《THE PIRATE QUEEN》(4/29プルミエ)の公演がOpernnetz評で満点に評価されているのが目にとまり、ちょっと気になった劇場。外観(下記写真)からわかるように(?)座席数が「488」という、きわめて小規模な劇場ではあるが、オペラ、ミュージカル、オペレッタ、バレエ、コンサートがほぼ毎日のように上演されており、動画(下記参照)を見ると、小劇場ならではのアットホーム感がただよっていて実に興味深い…
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https://de.wikipedia.org/wiki/Theater_Nordhausen/Loh-Orchester_Sondershausen
ところで、ノルトハウゼンと言われてドイツのどこに位置するか即座に答えられれば、相当のドイツ通と言えるかもしれない。私は即座にGoogleで調べた次第。
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ノルトハウゼン(Nordhausen)は、ドイツのテューリンゲン州にある、ハルツ山地南端に位置する人口約45,000人の都市で、ノルトハウゼン郡の郡庁所在地である。かつてはたばこ産業で知られ、今も蒸留酒の「ノルトハウザー・ドッペルコルン」で知られている。
とあるが、地図を見ればわかるように、ドイツのほぼ中心に位置していると言っても過言ではなさそう。また、ライプチヒ、イェーナ、エアフルト、アイゼナハ、カッセル、ゲッティンゲン、ゴスラー、ハレなどに囲まれているという点で文化的要衝とも言えるかもしれないが、1990年までは東独領だったことは言うまでもない。

▼参考動画


























by ka2ka55 | 2016-05-19 00:55 | オペラ | Comments(0)

続)注目オペラ歌手(50)アスミク・グリゴリアン(Asmik Grigorian, 1981-, リトアニア)(S)

▼今年1月20日付の記事で「注目オペラ歌手」として取り上げたリトアニア出身のアスミク・グリゴリアン(Asmik Grigorian)(S)が(注目した通りと言うべきか)先日(5/15)開催された国際オペラ・アワード(International Opera Awards)において「若手女性歌手(Young Female Singer)」部門で受賞したので、祝福の意味を込めて同記事を再掲します。
▼アスミク・グリゴリアン(Asmik Grigorian, 1981-, リトアニア)(S)
リトアニアの首都ヴィルニアス出身のソプラノ。今年35歳(1981年生まれ)なので辛うじて若手と言えそうだが、参考動画を見る限り、容姿もさることながら歌唱力も演技力も申し分なく、レパートリーも広い。にもかかわらず、欧州の主要オペラハウス(スカラ座、ウィーン国立、バイエルン国立、ROHなど)での出演歴はないようである(Operabaseを参照)。ちなみに今月31日ベルリンKOBでプルミエの《エヴゲーニイ・オネーギン(Jewgeni Onegin)》(B.コスキー演出)にタチアーナ役で出演が予定されているが、同公演はライブ中継も予定されている。
▼参考動画






























by ka2ka55 | 2016-05-18 01:38 | オペラ | Comments(0)

続)ヘルマン・ヘッセに捧ぐ: 誤訳を見つけて御役に立てれば何より…

前回のつづき

▼そもそも"Bocksbart"とは?…
たとえば、DUDENのオンライン版「独独辞典」で"Bocksbart"を引いてみると、写真とともに以下のように説明されている。
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つまり、"Bocksbart"には大きく分けて2つの異なる意味があることが写真からも明らか。すなわち「(1) 雄ヤギ(Ziegenbock)のヒゲ(Bart)と(2)(キク科植物に属する)細い薄緑色の葉を有し、大きな黄色い放射状の花をつける植物」。これは一般の大きめの独和辞書にも載っている(頻度は低いが)けっして珍しい単語ではない。たとえば小学館の独和大辞典には「(1)ヤギのひげ/(2)(植)バラモンジン(婆羅門参)(根は西洋ごぼうと呼んで食用になる)」とある。しかし、なぜ同じ単語(Bocksbart)にこのような異なる意味があるのか。あくまでも私的な解釈にすぎないが、「ヤギのひげ」が文字通りの原義であり、植物にしても何にしてもこれに形状が似たもの、あるいは見た目でこれを連想させるものに対してこの名称が与えられた可能性があるのではないか。その証拠に、たとえば、比較的古いドイツ語も網羅されているグリム・ドイツ語辞典(Deutsches Wörterbuch von Jacob Grimm und Wilhelm Grimm)のオンライン版で"Bocksbart"を引いてみると、"BOCKSBART, m. tragopogon, benennung mehrerer pflanzen. "とある。すなわち「バラモンジン属(tragopogon)、種々の植物の名称」ということで、バラモンジン以外にも"Bocksbart"と呼ばれる植物の存在が示唆されているわけである。

しかし、いずれにしても、"Bocksbart"が植物として挙げられていれば、ふつうは疑うことなく「バラモンジン」と訳されても無理はない。そこで、これまでに17種類あるとされる邦訳(下記参照)のすべてについて調べられればよいが、そうもいかず、辛うじて手元にかき集められた10氏(青字)の訳について調べた結果を以下に示す。
秋山六郎兵衛『ヘルマン・ヘッセ全集』三笠書房、1940年(角川文庫)※『車輪の下に』
高橋健二 新潮社、1950 (新潮文庫)
秋山英夫 三笠書房、1954 講談社文庫、(偕成社文庫)
実吉捷郎(岩波文庫、1958)
石中象治訳 世界名作全集 平凡社、1958 
辻瑆訳. 世界名作全集 筑摩書房、1961 
榛葉英治訳 少女世界名作全集 偕成社、1962 
西義之訳. 白水社、1963 
岩淵達治(旺文社文庫、1966)
登張正実訳 筑摩世界文学大系、1972 
講談社世界文学全集(1974)では「車輪の下で」
山本藤枝訳 世界少女名作全集 岩崎書店、1973 
井上正蔵 世界文学全集 集英社、1973 (集英社文庫)
植田敏郎訳 ジュニア版世界の文学 集英社、1974 
片岡啓治訳 春陽堂書店 1978.2.
日本ヘルマン・ヘッセ友の会・研究会 編(伊藤貴雄)訳. ヘルマン・ヘッセ全集 臨川書店、2005
松永美穂(光文社古典新訳文庫 2007)※『車輪の下で』

Wikipediaより
▼原文
Daneben die vielerlei Pilze: der rote, leuchtende Fliegenschwamm, der fette, breite Steinpilz, der abenteuerliche Bocksbart, der rote, vielästige Korallenpilz; und der sonderbar farblose, kränklich feiste Fichtenspargel.

秋山六郎兵衛(1900-1971)訳
その近くにはさまざまな茸が生えていた。赤く光っているハエトリタケ、太く、幅の広いアワタケ、奇怪なバラモンジン、赤く枝がいくつにも分かれているホウキタケ、一風変って無色の、病的に肥ったマツバウド。

高橋健二(1902-1998)訳
そのそばにさまざまの種類のキノコがはえていた。つやのある赤いハエトリタケ、肉の厚い幅広いアワタケ、異様なバラモンジン、赤い枝の多いハハキタケ、など。それから一風かわって色のない、病的にふとっているシャクジョウソウ。

秋山英夫(1911-1991)訳
そのそばにはいろいろなきのこがはえていた。赤くひかっているはえとりたけ、肉の厚いはばのひろいあわだけ、奇怪なばらもんじん、枝がいくつにもわかれている紅色のははきたけ、それから奇妙に色のない病的にふとったしゃくじょうそうなど。

実吉捷郎(1895-1962)訳
そのわきには、いろんな種類のきのこ類が生えていた。赤い、かがやくばかりの紅天狗茸、厚い、はばのひろいあわたけ、怪奇なばらもんじん、赤い、枝の多いほうきだけ。そして妙ににおいのない、病的に肥大したしゃくじょうそう。

辻瑆(1923-)訳
その隣には、各種各様の茸がはえていた。赤い、輝くばかりのあしたかべに、厚ぼったくて幅のひろいやまどりだけ、奇怪なすがたのばらもんじん、赤くて枝のたくさんあるほうきたけ、それに、病的に太って妙に色のないぎんりょうそう、といったたぐいである。

岩淵達治(1927-2013)訳
そのそばに、いろいろな茸が生えている。赤く光ったアカハエトリタケや厚みも幅もあるヤマドリタケ、不可思議な形をしたバラモンジン、赤くてたくさん腕のでているホウキタケ、それに奇妙に色があせて病的にむくんだシャクジョウソウなどだ。

登張正実(1916-2006)訳
それとならんでさまざまなきのこ。赤く光っているあしたかべに、あぶらぎって幅ひろいやまどりだけ、へんちきりんなばらもんじん、先がいくつにもわかれた赤いほうきだけ、それに、妙に色がなく病的に太ったぎんりょう草。

井上正蔵(1913-1989)訳
そのそばに、いろんな茸が生えている。赤く光っているあしたかべに、厚ぼったい大きなやまどりだけ、へんな形のばらもんじん、赤くて先がいくつにもわかれているほうきだけ、妙に色あせて病的に太っているしゃくじょうそうなど。

伊藤貴雄(1973-)訳
そのそばには、いろんなキノコが生えていた。赤く光っているベニテングタケ、ずんぐりむっくりしたヤマドリタケ、風変わりなバラモンジン、先がいくつにも分かれた赤いホウキタケ、そして妙に色がなく病的にむくんだシャクジョウソウ。

松永美穂(1958-)訳
その横にはたくさんの種類のキノコがあった。赤く光るベニテングダケ、肉厚で幅広なヤマドリタケ、奇怪なバラモンジン、赤くてたくさん枝分かれしているサンゴタケ、そして奇妙に色のない、病的に太ったシャクジョウソウ。
以上のように、4種類のキノコ(Fliegenschwamm, Steinpilz, Bocksbart, Korallenpilz)が挙げられている(Fichtenspargelは別)が、Bocksbart以外のキノコの訳語にはそれぞれバラツキがあるにもかかわらず、Bocksbartの訳語は10氏がすべて(申し合わせたかのように)バラモンジン(ばらもんじん)で一致しているのが興味深い。というより、これに異論を唱えることは無謀もしくは無理であり、ふつうは誰もしないだろう。しかし、間違いは間違い。

まず、バラツキがあるとはいえ、「バラモンジン(ばらもんじん)」以外はすべてキノコの名称であることは間違いない。しかし、すでに指摘したように、漢字では「婆羅門参」と表記される植物は、けっしてキノコの一種ではない。「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説」には以下のように記載されている。
バラモンジン(婆羅門参)
バラモンジン
Tragopogon porrifolius; salsify; oyster plant
キク科の多年草で,セイヨウゴボウともいう。地中海地方原産で,フランスなど南ヨーロッパで野菜として栽培されるほか各地で野生状態にもなっている。全体はゴボウに似て太い主根が地中に伸び,白色で軟らかく,乳液を出す。
https://kotobank.jp/word/バラモンジン(婆羅門参)-116766
引用はしないが、Wikipediaの「バラモンジン」にも詳しく解説されているように、キノコとは別物であることは明らかであり、異称として「バラモンジン」と呼ばれるキノコの存在も確認できない。一方、同項目のドイツ語版を見ると、"Haferwurzel"とあるが、"Tragopogon porrifolius"と学名が併記されているので、「婆羅門参」と同一であることは間違いなく、異称として"Purpur-Bocksbart"も挙げられている。つまり、"Bocksbart"が「バラモンジン」と訳せるのは、学名が"Tragopogon porrifolius"であるキク科バラモンジン属に属する植物に限定されるということである。したがって、いささかクドくなるが、ヘッセがキノコの一種として挙げた"Bocksbart"を「バラモンジン(ばらもんじん)」と訳すことはできず、上の10氏の訳はすべて誤訳と言わざるをえない。

ちなみに参考までに英訳を調べたところ、これも興味深いことがわかった。
▼英訳
Next to them all kinds of mushrooms: the shiny red fly-agaric, the fat and fleshy ordinary mushroom, the red tangled coral-mushroom, the curiously colorless and sickly-looking Pine Bird’s Nest.
参照した英訳は以上の1例のみ(Kindle版のBeneath the Wheel)だが、同訳文では原文の"der abenteuerliche Bocksbart"に対応する訳がすっぽり抜け落ちている。これは単なる訳抜けか、意図的な省略か、定かではないが、今回、この英訳を参照したのをきっかけに、15年前は解決までに難渋したことが、あっさり難なく解決してしまったのである。 (つづく)

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by ka2ka55 | 2016-05-17 18:02 | ドイツ語/外国語 | Comments(0)

ヘルマン・ヘッセに捧ぐ: 誤訳を見つけて御役に立てれば何より…

前回ヘルマン・ヘッセ(Hermann Hesse, 1877-1962)の作品(Der Steppenwolf)に関連した記事を書いていて、以前途中まで書いて没にしていた記事があったのを思い出した。ヘッセの作品の中では、おそらく最も有名な小説『車輪の下(Unterm Rad)』に関するものだが、このまま没にしてしまうにはもったいない記事でもあるので加筆して復活させることにした。ただし、ご多分に漏れずマニアックな話題であり、ドイツ語や翻訳に興味のない方は読み飛ばしてしまって結構。

さて、本題。…もう15年ぐらい前になると思うが、同業の仲間と翻訳の非公開の勉強会をオンライン上で行っていたことがあり、そのさいにたまたま『車輪の下』の翻訳が話題になったことがある。話題になったのは、第二章の冒頭の一パラグラフ中の記述。少し長いが全文を以下に引用する。
Zweites Kapitel
So müssen Sommerferien sein! Über den Bergen ein enzianblauer Himmel, wochenlang ein strahlend heißer Tag am andern, nur zuweilen ein heftiges, kurzes Gewitter. Der Fluß, obwohl er seinen Weg durch so viel Sandsteinfelsen und Tannenschatten und enge Täler hat, war so erwärmt, daß man noch spät am Abend baden konnte. Rings um das Städtchen her war Heu- und Öhmdgeruch, die schmalen Bänder der paar Kornäcker wurden gelb und goldbraun, an den Bächen geilten mannshoch die weißblühenden, schierlingartigen Pflanzen, deren Blüten schirmförmig und stets von winzigen Käfern bedeckt sind und aus deren hohlen Stengeln man Flöten und Pfeifen schneiden kann. An den Waldrändern prunkten lange Reihen von wolligen, gelbblühenden, majestätischen Königskerzen, Weiderich und Weidenröschen wiegten sich auf ihren schlanken, zähen Stielen und bedeckten ganze Abhänge mit ihrem violetten Rot. Innen unter den Tannen stand ernst und schön und fremdartig der hohe, steile rote Fingerhut mit den silberwolligen breiten Wurzelblättern, dem starken Stengel und den hochaufgereihten, schönroten Kelchblüten. Daneben die vielerlei Pilze: der rote, leuchtende Fliegenschwamm, der fette, breite Steinpilz, der abenteuerliche Bocksbart, der rote, vielästige Korallenpilz; und der sonderbar farblose, kränklich feiste Fichtenspargel. Auf den vielen heidigen Rainen zwischen Wald und Wiese flammte brandgelb der zähe Ginster, dann kamen lange, lilarote Bänder von Erika, dann die Wiesen selber, zumeist schon vor dem zweiten Schnitte stehend, von Schaumkraut, Lichtnelken, Salbei, Skabiosen farbig überwuchert. Im Laubwald sangen die Buchfinken ohne Aufhören, im Tannenwald rannten fuchsrote Eichhörnchen durch die Wipfel, an Rainen, Mauern und trockenen Gräben atmeten und schimmerten grüne Eidechsen wohlig in der Wärme, und über die Wiesen hin läuteten endlos die hohen, schmetternden, nie ermüdenden Zikadenlieder.
同作品の「あらすじ」等は省くが、邦訳に関しては、ウィキペディアの「車輪の下」の記事によると、17種類出ており、「中でもヘッセ作品を最初に日本に紹介し、また自身もヘッセに面会したことのある高橋健二が訳したものが最も有名である」と記載されているので、その高橋健二訳(新潮文庫版、pp.39-40)を以下に引用させてもらう。
第二章
夏休みはこうなくてはならない。山々の上にはリンドウ色に青い空があった。幾週間もまぶしく暑い日が続いた。ただときおり激しい短い雷雨が来るだけだった。川はたくさんの砂岩やモミの木かげや狭い谷のあいだを流れていたが、水があたたかくなっていたので、夕方おそくなってもまだ水浴びができた。小さい町のまわりには、干草や二番刈りの草のにおいがただよっていた。細長い麦畑は黄色く金褐色になった。あちこちの小川のほとりには、白い花の咲くドクゼリのような草が、人の背ほども高く茂っていた。その花はかさのような格好で、小さい甲虫(かぶとむし)がたえずいっぱいたかっていた。その中空の茎を切ると、大小の笛ができた。森のはずれには、柔らかい毛のある、黄色い花の咲く、堂々としたビロウドマウズイカが長くきらびやかに並んでいた。ミソハギとアカバナ属が、すらりとした強い茎の上でゆれながら、谷の斜面を一面に紫紅色におおうていた。モミの木の下には、高くそそり立つ赤いジギタリスが厳粛に美しく異様にはえていた。その根生葉(ねおいば)には銀色の柔らかい毛があって幅が広く、茎が強く、萼上花(がくじょうか)は上のほうに並んでいて美しい紅色だった。そのそばにさまざまの種類のキノコがはえていた。つやのある赤いハエトリタケ、肉の厚い幅広いアワタケ、異様なバラモンジン、赤い枝の多いハハキタケ、など。それから一風かわって色のない、病的にふとっているシャクジョウソウ。森と草刈り場のあいだの雑草のはえた境のところには、強いエニシダが真っ黄色に輝いていた。それから細長い薄むらさきのミネズホウ。それからいよいよ草刈り場。そこはもう大部分二度めの草刈りを前にして、タネツケバナ、センノウ、サルビア、松虫草などがはなやかにおいしげっていた。闊葉樹(かつようじゅ)の林の中ではアトリがたえ間なく歌っており、モミの林ではキツネ色のリスがこずえのあいだを走っていた。道ばたや壁のそばや、かれた堀では、緑色のトカゲがあたたかさに気持ちよさそうに呼吸しながら、からだを光らしていた。草刈り場をこえてずっと向うまで、かん高い、うむことを知らぬセミの歌が響きわたった。
さて、この文章の何が話題もしくは問題になったのか。じつは、この「自然描写」について特に言及した雑誌の記事を私が見つけてきて勉強会で紹介したのが事の始まりだった。その雑誌というのは、もうすでに廃刊(休刊?)になっているが、三修社が1979年12月1日に第1号を発行した「ドイツ語研究」であり、紹介したのは、第3号(1980年10月1日発行)の巻頭(p.2)に掲載された同誌編集者の真鍋良一氏による以下の記事。
 Hermann HessのUnterm Rad「車輪の下」の第2章のはじめに,町はずれの田舎の夏景色の描写があります.そこはヘッセの得意とする,またしばしば賞賛される自然描写なのですが,たかだか1ページばかりの中に植物の名が20近く出て来ます.Öhmd「二番刈りの乾し草」などというめずらしい語から,
  Tanne「もみ」,Schierling「どくぜり」,Königskerze「びろうどもうずいか」,
  Weiderich「えぞみそはぎ」,Weidenröschen「やなぎらん」,Fingerhut「じきたりす」,
  Fliegenschwann「べにてんぐだけ」,Steinpilz「やまどりだけ」,Bocksbart「ばらもんじん」,
  Korallenpilz「ほうきだけ」,Fichtenspargel「ぎんりょうそう」,
  Ginster「えにしだ」,Erika「えりか」,Schaumkraut「たねつけばな」,
  Leichtnelke「せんのう」,Skabiose「まつくいむし」など.
 ほんとうはこの花や茸の名をきいて,ああ,あれかと目に浮かべうる人,花の色,大きさ,形などをよく知っている人にしてはじめて,その描写がわかるわけのものです.訳すことは訳せますが,植物名も独和辞書の訳語にたよるより手がない人は訳せてもやはりわかっていない部類に入るのですね.「ばらもんじん」など私の手許の国語辞書にはありません.BrockhausでBocksbartを調べたら,黄色い野菊のような花の挿絵がありました.もっとも葉は菊とはちがいますが,これで何とか見当をつけて,原文を見ると,このBocksbartにabenteuerlichという形容詞がついているのですね.困りました.やっぱり私も訳せるが,わからない部類かと思って,いささかがっかり.こんなことはしばしばあります.だからこそ「わかる」努力が必要なのです.
すでに故人の真鍋良一氏は多くの著書や翻訳書がある高名なドイツ語学者であり、そのような先生の言葉だけに大概は納得してしまうのだろうが、すくなくとも私には納得がいかず、ドイツ語に詳しい同業者にいわば問題提起する形となった。私が納得いかなかったのは、真鍋氏も不可解に思ったはずの"Bocksbart"の訳語「ばらもんじん」についてである。

「『ばらもんじん』など私の手許の国語辞書にはありません.BrockhausでBocksbartを調べたら,黄色い野菊のような花の挿絵がありました」とあるが、じっさいに現在ネットで"Bocksbart"を画像検索してみても、たしかに「黄色い野菊のような花」しかヒットしない。しかし、原文(太字部分)を読めばわかるように、ヘッセは"Bocksbart"を「キノコ(Pilz)」の一種として挙げているので、「野菊のような花」では辻褄が合わないことになる。しかも「異様な(abenteuerlich)」と形容されるのもオカシイ。

ちなみに15年前といえば、すでにインターネットは普及していたものの、検索エンジンはGoogleがようやく本格的に利用できるようになり始めたばかりで、翻訳上の調べものなどはまだ紙の辞書や辞典類に頼るケースが多かったと思う。つまり、その点で真鍋氏が上の記事を書いた40年近く前とそれほど変わりはなかったわけだが、そのせいか私の問題提起もしくは疑問はすぐには解決せず、あるいは(不遜にも)ヘッセが何か勘違いして誤った植物名を挙げてしまったのではないかという話にもなりかけていた。ところが、しばらくして、根気強く調べていた人がいて、ある植物図鑑によると、ドイツの地方によっては、いわば方言として"Bocksbart"と呼ばれる「キノコの一種」が存在することが突き止められたのである。 (つづく)

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by ka2ka55 | 2016-05-12 01:50 | ドイツ語/外国語 | Comments(0)

Viktor Åslund作曲《Der Steppenworf》@独ヴュルツブルク(2016/05/07世界初演)とはどんなオペラなのか

うっかりノーマークだったためすでに上演されてしまったが、5/7(土)に独ヴュルツブルク(Mainfranken Theater Würzburg)で世界初演として上演されたオペラ《Der Steppenworf》に関する満点のOpernnetz評(Zerrissenes Lebensgefühl)が目にとまったので、取り急ぎ掲載することにする。

タイトルの"Der Steppenwolf"でピンとくる人も多いとは思うが、邦題では「荒野のおおかみ」で知られるヘルマン・ヘッセ(Hermann Hesse, 1877-1962)の同名長編小説のオペラ化のようである。なぜいま「荒野のおおかみ」なのか、よくわからないが、オペラ化は初めてのようであり、トレイラー(下記参照)などを見る限りでは、どちらかというと、オペレッタもしくはミュージカル仕立ての印象を受ける。

▼関連記事
WÜRZBURG: DER STEPPENWOLF von Viktor Aslund. Uraufführung
Hesses Steppenwolf als Oper
Sinnlicher Selbsterfahrungstrip

▼参考動画



by ka2ka55 | 2016-05-09 12:30 | オペラ | Comments(0)

キンさんギンさんは健在だった…

以前にも記事にしたが(下記参照)、散歩コース上にある近所の緑地にはキンランギンランもしくはササバギンランが自生していて、いつの間にか花が咲いているのが目にとまった。相変わらず「絶滅危惧II類」(ササバギンランは「準絶滅危惧種」)に指定されているようだが、少なくとも近所の緑地内では増えもせず減りもせず保全されているようでなにより。
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▼過去の関連記事
・キンラン(金蘭)が近所の緑地に自生している(2013-04-18
・本日のキンラン(金蘭)@近所の緑地(2013-04-18
・本日のキンラン(金蘭)/ギンラン(銀蘭)/ビンズイ(便追)@近所の緑地(2013-04-25
by ka2ka55 | 2016-05-03 12:10 | 自然 | Comments(0)

注目オペラ歌手(61)オルガ・クルチンスカ(Olga Kulchynska, 1990-, ウクライナ)(S)

▼オルガ・クルチンスカ(Olga Kulchynska, 1990-, ウクライナ)(S)
1990年ウクライナのリウネ(Rivne)生まれとのことなので今年26歳のソプラノ。正真正銘の「若手」と言えそうで、2005年(15歳?)から2009年までキエフ・グリエール音楽大学(Kiev Glier State College of Music)で音楽理論を専攻、19歳でウクライナ国立チャイコフスキー記念音楽院(Tchaikovsky Kiev National Music Academy of Ukraine)にて声楽を学び始め、ここを2014年に卒業したばかり。同音楽院のオペラ研修所では《愛の妙薬(L’Elisir d’Amore)》のジャンネッタ(Gianetta)役、《フィガロの結婚(Le Nozze di Figaro)》 の伯爵夫人(La Contessa)役を演じ、2015年つまり昨年の国際声楽コンクール(Francesc Viñas International Singing Competition)で優勝している。プロとしてのデビューは、2014年のボリショイ劇場(Bolshoi Theater)でのようだが、メジャーの主役級のデビューは昨年(2015年)6月にチューリッヒで上演された《カプレーティとモンテッキ(I Capuleti e i Montecchi)》におけるジュリエット役ではないかと思われる(下記動画参照)。



全曲版(https://www.youtube.com/watch?v=mdL3fYd-TyA


▼その他の参考動画












by ka2ka55 | 2016-05-03 01:47 | オペラ | Comments(0)