Das Notizbuch von ka2ka ― ka2kaの雑記帳

飛んでいくオランダ人

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相変わらず千円(!)もして40頁そこそこの新国立劇場の「プログラム」(欧州とくにドイツの歌劇場のプログラムももちろん有料だが、せいぜい日本円で4-5百円程度)。高すぎると思いつつ、「プログラム収集癖」があるアタシとしては、つい買ってしまう。悪い癖である。しかも内容は、頁の薄さに比例するかのよう。再演の場合は、写真も文章も前回の公演の際の使い回しだったり、訳のわからない〇学者の独りよがりの駄文が掲載されていたり。欧州の歌劇場のプログラムには「リブレット(台本)」の原文と訳文が掲載されていることも珍しくなく、安い割に充実しているのとは実に対照的。
とはいえ、読みでが皆無かといえば、けっしてそういうわけでもない。まあ、ワーグナーの場合は特別で音楽的な背景のみならず文学やその他さまざまな文化的・社会的背景が絡んでいるため有能な(?)書き手が無尽蔵ということもあろう。
今回のプログラムに掲載されている文章はいずれも興味深く、とくに「さまよえる『幽霊船』伝説 ~呪われた航海から、愛による救済まで~」と題された口承文芸学者の小澤俊夫氏(征爾氏の兄)の記事は「さまよえるオランダ人」伝説の起源と発展経過の理解の助けとなる。この中で「日本語では「さまよえるオランダ人」と訳されているが、ドイツ語では「飛んでいくオランダ人」という言葉である。そして、ドイツ語でこれを言うとき、その意味するものは、必ずしも「オランダ人」ではなく、「飛んでいくオランダ船」という意味になる。」と書かれている(p.29)が、たしかに原題"Der fliegende Holländer"は英語でも"The Flying Dutchman"と訳されているので素直に読めば「飛んでいくオランダ人」である。
では、なぜ「さまよえる」なのか。それは「飛んでいく」では様にならないから。「さまにならないオランダ人」になってしまう。とは小澤氏は書いていない。というか、この「なぜ」には納得のいく説明がない。「海上での「飛んでいくオランダ人」が永遠に安らぎを得られないというモチーフは、ヨーロッパに広く伝えられている「地上を永遠にさまよい歩くユダヤ人」という観念や、「空中を永遠に駆け回る猟人」という観念と近似のものとしてうけとられた」と書かれているが(p.30)、だからと言って「飛んでいく」が「さまよえる」になるには無理がある。
そこで、念のために辞書で確認してみると、もともとドイツ語の"fliegend"という形容詞には「さまよえる」の意味が(も)あるらしい。とくに独独辞典(DUDEN)の説明には「定住せずに自由に移動する、放浪する(ohne festen Standort, frei beweglich, umherziehend)」意味とあり、用例として「行商人(fliegender Händler)」、「航空救急(fliegende Ambulanz)」、「移動式のソーセージ屋台(fliegende Würstchenbuden)」のほか「可動建築物(fliegende Bauten)」などが挙げられている。
by ka2ka55 | 2012-03-10 14:21 | ドイツ語/外国語 | Comments(0)