Das Notizbuch von ka2ka ― ka2kaの雑記帳

アラベッラ@NNTT

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新国立劇場2010/2011シーズン開幕公演[新制作]
アラベッラ
全3幕/ドイツ語上演/字幕付
台本:フーゴ・フォン・ホーフマンスタール/作曲:リヒャルト・ゲオルク・シュトラウス
2010年10月5日(火)/新国立劇場/午後3時開演・6時35分終演/2階右ドア側1列端B席(13.15K)/★★★

スタッフ&キャスト

NNTT(新国立劇場)のオペラの今シーズン(2010/11)がR.G.シュトラウスの《アラベッラ(Arabella)》(新制作)で開幕した(初日は10月2日)。なぜ《アラベッラ》がオープニング演目なのか。次は《フィガロの結婚》でその次は《アンドレア・シェニエ》であることから50音順ではないことは確かだろう。あるいは、今季からオペラ芸術監督が故若杉弘氏から尾高忠明氏に交代したことと何か関係があるのか。その新芸術監督が今回のプログラムに載せているエッセイ(pp.39-40)を読むと、1970年代にウィーンに留学していて毎晩のように国立歌劇場(シュターツオーパー)や国民歌劇場(フォルクスオーパー)に通い詰めていたとのこと。同氏については英国のイメージが強いせいか、これはちょっと意外だった。でも、まあ、芸術監督の個人的な趣味だけで演目が決定されるとは思わないけれど…。

さて、問題の《アラベッラ》だが、シュトラウス+ホーフマンスタールらしくおバカな内容である。初めて観る/聴くオペラのためCDもしくはDVDで「予習」しかけたが、あらすじを読んで止めてしまった。要するに、「バカの騎士」ならぬ《ばらの騎士》の「二匹目のどじょう」を狙ったものとの印象は拭いきれない。「珠玉の名作」(新芸術監督の弁)かどうかは観てから判断するしかないだろう(と思った)。

十分な予習はしなかったもののNMLのハイライト版やYTなどから「聴きどころ」と思しき箇所はとりあえず押さえて臨んだ。しかし、イタリア語やフランス語と違って、多少は聞き取りができるはずと思ったのは甘かった。冒頭からアデライデ(日本人Ms)とカルタ占い(日本人Ms)は何(語)を言っているのかまったくわからず字幕(増田恵子/河野俊行)頼りとなりにけり。あまりエラそうなことは言えないし、外人歌手(ほとんどドイツ語ネーティブ)と比べるのも酷だとは思うが、日本人歌手は総じてドイツ語ディクション(歌唱発音)が甘すぎるのではないか。いずれにしても、外人歌手同士のやりとりになってようやく「ドイツ語上演」らしくなった。

最初の聴きどころは、第一幕の"Aber der Richtiger, wenn's einen..." で始まるアラベッラとズデンカとの二重唱だろう。このシーンは録音のみを含めてYTにいくつもアップされているが、なかでも最も華やかに見えるのは、ルネ・フレミングがアラベッラ役のやはりこの映像かもしれない。これと比較してもどうしようもないが、今回のアラベッラ役(ミヒャエラ・カウネ)については、ネット上の初日の感想はあまり芳しくなかったこともあり、期待していなかったせいか、それほど酷いとは思わなかった。まあ、申し分なしとは言わないまでも(容姿を含めて)十分に許容範囲。あたしゃ、ドイツ人(カウネはハンブルク出身)には甘いのかもしれないが…。

問題は演出である。本来は1860年代のウィーンが舞台だが、これを1930年代に置き換えたとのこと。これは単に作品が成立した年代に合わせただけかと思ったら違うらしい。演出家(フィリップ・アルロー)の制作ノート(プログラムに掲載)には置き換えた理由が書かれているが、言われてみればそうかもしれない程度の説得力。しかも実際の舞台ではその時代も場所も明確に判別できるものがあるわけでもない。そういえば、第一幕ではクリムトの絵が何枚もわざとらしく飾られていたが…安直の極み。「自分自身の今の演出スタイルを考えますと、ごてごてとした豪華絢爛な舞台よりも、余計なものをそぎ落とした空間を使ったやり方を得意としていますので。空間を研ぎ澄ませていって、ストーリーを語れる装置を作っていく。そのように考えました」(pp.6-7)というのだが…その結果、衣装が森英恵というのがよくわからない。いや、衣装はさすがにセンスはよくて結構でしたが。タイトルロールの衣装を含めてブルーが基調の舞台(上のチューリッヒの公演に倣ったかのよう)は結局、演出家の個人的な趣味(スタイル)の押し付けではなかろうか(とさえ思えた)。ただし、第ニ幕では、このブルーの舞台に天羽明恵が演じたフィアカーミッリ(後述)の赤の衣装がよく映えた。まるで見てきたばかりのシャガールの配色のようで、このあたりはさすがにフランス人(と日本人デザイナー)のセンスのよさが感じられた。

そして次の、いや最後の聴きどころは、やはり第三幕ラストの"Das war sehr gut, Mandryka"で始まるアラベッラとマンドリカの「二重唱」だろう。おバカな内容ではあっても知らず知らずのうちに引き込まれてしまうという点では、まさしく、シュトラウス+ホーフマンスタールのオペラである。このシーンについては、バイエルン州立歌劇場が1988年に行った東京公演の収録映像がYTにアップされている。いろんな意味で「歴史的」な公演だったようだが、ここでアラベッラを演唱しているのは、この公演の24年前、つまり1964年のメトロポリタンで「夜の女王」を歌った例のルチア・ポップだ(当然、東京公演当時の年齢は48歳)。こんな過去の映像と比べて今回の公演が劣っているとは思えない。とくにこのラストシーンは聞き応えも見応えもあった。

いずれにしても欠点も不満もないことはない公演ではあったが、欠点を論ってばかりでは、それこそ「唇寒し」になりかねない。少なくとも主役級のキャストがすべて招聘(ネーティブ)歌手陣で固められていたことは、よかったと言わざるをえない。とりわけマンドリカ役のトーマス・ヨハネス・マイヤー(ドイツ、ベンスハイム出身)は申し分なかった(der Richtigerかどうかは別)。ちなみにアラベッラとマンドリカだけとなったラストシーンでは隣のご婦人はしきりに涙を拭いていた。だからといって「甘ーーーい!」などと言ってはならないのである。
by ka2ka55 | 2010-10-05 21:24 | 音楽 | Comments(0)